朝礼より
「東大、超薄連続切片技術と3D画像再構築技術で藻類の細胞内の変化を明らかに」
マイナビニュース
東京大学は、電子顕微鏡による超薄連続切片技術と3D画像再構築技術とを組み合わせて、淡水産の単細胞性緑藻の1種の「ヘマトコッカス藻」がストレス条件下で培養された際に抗酸化作用のある物質「アスタキサンチン」やそれを含むオイルを蓄積していく仕組みを明らかにしたと発表した。
バイオ燃料は生物資源由来のエタノールやディーゼル燃料などを指し、カーボンニュートラルな再生可能資源であることから、将来も有望なエネルギー源として期待されている代替えエネルギーの1つだ。
とりわけ藻類は、穀物など食料作物との競合がなく、またバイオ燃料以外にもデンプンなどの付加価値の高い有用物質を生産する点で注目されており、近年、バイオマス利用のための研究が盛んだ。今回の研究で対象となったヘマトコッカス藻は強光などのストレス条件下で培養すると、カロテノイドの1種で前述したように強い抗酸化活性を持つ赤色の色素の抗酸化物質アスタキサンチンを生産することが知られている。
アスタキサンチンはβ-カロテンの5倍、ビタミンEの110倍、ビタミンCの6000倍以上という非常に強い抗酸化活性があるとされており、医薬品、健康食品、化粧品などへの商業利用が進んでいる。また、サケマスなどの養殖魚や鶏卵の色揚げにもなくてはならないものになっている。
研究グループは、ヘマトコッカス藻の「栄養細胞」がストレス条件下でアスタキサンチンを蓄積し、環境ストレスに耐性のある休眠状態の細胞であるシストに変化する過程を、アスタキサンチンやそれを含むオイルの増減、細胞小器官「オルガネラ」の動態に注目して解析した。
1つの細胞を1枚80nmの連続した350枚の超薄切片に切り分け、それらを1枚1枚電子顕微鏡で観察した画像を並べた。これをコンピューターに取り込み、ラットクシステムエンジニアリングとの共同研究で3D画像に再構築した。
その結果、強光下のシスト化過程でヘマトコッカス藻の細胞内構造が劇的に変化することが明らかになったのである。例えば、アスタキサンチンを含むオイルの体積は0.2%から約52%まで増加し、一方、細胞体積の約42%を占めていた葉緑体は9.7%にまで減少した。
今回の成果は、正確な体積計算が3D画像を用いることで初めて可能になり、それによりアスタキサンチンを含むオイル蓄積の仕組みに関する多くに知見が得られた形だ。この技術は今後、藻類が生産するオイルや有用物質の細胞内蓄積量の推定に不可欠となるだろうと、研究グループはコメント。なお、細胞全体の体積の52%に当たるオイルは、今後、バイオ燃料としても期待されるとしている。
担当・I